最新トレンド:2025年のセットアップオフィス賃料相場と市場動向

いま“内装付き”にお金をかけるべき理由

2025年に入り、東京のオフィスマーケットでは「セットアップオフィス」がますます注目を集めています。オフィス移転を検討するテナントの多くが、スケルトンではなく内装付き物件を第一候補とするようになり、仲介の現場では「即入居できる」「初期費用を抑えられる」という条件が最優先されるケースが増えました。

背景には二つの大きな変化があります。ひとつは、企業がオフィスを“長期固定資産”としてではなく、“流動的な経営リソース”として捉えるようになったこと。もうひとつは、人材確保や働き方の多様化に伴い、スピード感ある意思決定とオフィス環境の柔軟性が求められていることです。

こうした潮流の中で、オーナーが自ら内装投資を行い、完成度の高い空間を用意することで、より高い賃料と早期リーシングを実現する動きが加速しています。本稿では、RAKNA(当社が運営するセットアップオフィス専用サイト)の最新データを基に、主要5区(渋谷区・港区・中央区・千代田区・新宿区)の賃料相場を読み解き、そこから見える市場動向とオーナーにとっての戦略を考察します。

最新賃料相場データから見るセットアップオフィスのエリア別の特徴

RAKNA(当社運営サイト)の調査によると、港区を中心にエリアごとで明確な違いが出ています。

渋谷区 ― 小規模区画が牽引する高水準

渋谷区は、2025年9月時点で依然として小規模区画が強く、30坪未満の平均賃料は42,529円/坪と高水準です。特に渋谷駅周辺の物件は49,043円/坪に達しており、内装・家具が整った小区画は“即決”されやすい状況が続いています。

30〜50坪帯も36,587円/坪と堅調。50〜100坪帯では39,755円/坪と、中規模でも高い数字を維持しています。恵比寿や代官山、広尾といったエリアではデザイン性を重視するスタートアップや外資系企業が多く、相場を底上げしているのが特徴です。

この背景には、「少人数チームでもすぐに入居したい」「採用競争に勝つためにデザイン性の高いオフィスを持ちたい」というテナント心理があります。オーナーにとっては、小規模区画を複数用意する戦略が有効です。

港区 ― 面積帯によって明暗が分かれる

港区全体では、30坪未満が33,224円/坪、30〜50坪が27,760円/坪、50〜100坪が31,160円/坪、100坪以上が28,929円/坪となっています。

一見すると渋谷に比べて落ち着いた水準ですが、サブエリア別に見ると大きな違いがあります。虎ノ門・新橋・神谷町エリアでは30坪未満が46,219円/坪と高水準を維持。さらに青山・表参道エリアの50〜100坪では41,000円/坪が確認されており、立地次第で高額成約が可能です。

逆に30〜50坪帯はやや弱含み。平均で27,000円台に留まり、差別化がなければ成約まで時間を要することも。オーナーにとっては中型区画こそ工夫が必要なレンジと言えます。

中央区 ― ブランドエリアの存在感

中央区は区全体の平均で、30坪未満が29,576円/坪、30〜50坪が23,185円/坪、50〜100坪が26,726円/坪、100坪以上が30,827円/坪です。

数字だけ見ると相場は抑えめですが、エリアによって大きく表情が変わります。例えば日本橋・京橋の30坪未満は44,427円/坪と港区並みの水準にあり、銀座エリアでは50〜100坪帯が35,000円/坪に達します。

老舗企業や外資系の日本拠点など、「立地ブランド」にこだわるテナントは依然として多く、好立地小区画のプレミアムは強固です。オーナーにとっては、立地の優位性を前面に押し出すプロモーションが重要です。

千代田区 ― 中型以上で力を発揮

千代田区は、30坪未満が25,584円/坪、30〜50坪が26,072円/坪、50〜100坪が30,184円/坪、100坪以上が28,467円/坪

注目すべきは、大手町・丸の内エリアの50〜100坪帯で、45,000円/坪の事例が確認されています。金融・法律事務所・大企業の分室など、信頼性を重視するテナントが多く、グレードの高い中型区画に投資する価値があります。

千代田区では「大型より中型に厚みがある」点が他区との違いです。オーナーとしては、50〜100坪の区画にセットアップ投資を行うことで、相場を大きく上振れさせる可能性があります。

新宿区 ― 大型・中型に強み

新宿区は全体平均で、30坪未満が22,665円/坪、30〜50坪が29,562円/坪、50〜100坪が30,462円/坪、100坪以上が29,127円/坪

西新宿では特に強く、30〜50坪で36,667円/坪、50〜100坪で37,000円/坪という水準が出ています。渋谷や港の小区画とは異なり、新宿は中型〜大型の需要が厚いのが特徴です。オーナーにとっては、大規模ビルを分割してセットアップ化することで、効率よくリーシングを進められるエリアと言えます。

面積帯トレンドから見えるポイント

  • 小型(〜30坪):渋谷・港・中央の一等地では坪単価4万〜5万円台に。デザイン性や即入居性が決め手。
  • 中型(30〜50坪):港・中央ではやや弱め。差別化がなければ相場より安くせざるを得ない。
  • 中規模(50〜100坪):千代田・新宿で高水準。渋谷・港でも設計次第で伸びる。
  • 大型(100坪以上):新宿・中央で安定的に需要があるが、分割可能性が成否を左右する。

まず注目すべきは、30坪未満の小型区画です。渋谷・港・中央といった一等地では坪単価が4万〜5万円台に達し、デザイン性の高さや即入居できる利便性が成約の大きな決め手となっています。小さな区画ほど意思決定が早く、数日単位で契約がまとまるケースも少なくありません。

一方で30〜50坪の中型区画は、港区や中央区を中心にやや弱含みの傾向が見られます。供給が増えて競合が激しいため、特に差別化要素がなければ相場よりも低い水準での募集を余儀なくされる場面もあります。設計や仕様を工夫することが、このレンジで戦ううえで不可欠です。

これに対し、50〜100坪の中規模区画は千代田区や新宿区で強い需要を背景に高水準を維持しています。渋谷や港においても、設計や内装の完成度次第では十分に単価を引き上げられるポテンシャルがあります。さらに100坪を超える大型区画では、新宿・中央のエリアで安定的な需要が見られます。ただし、この規模になると「分割可能性」が成否を左右します。大きな区画をそのまま貸すのではなく、二分割や三分割を前提に設計しておくことで、成約の確度が高まるのです。

仲介現場から見える「決まりやすさ」の差

私たち仲介業者の立場から見ると、数字には表れない“決まりやすさ”の違いが確かに存在します。成約に至るスピードや確度は、賃料や立地といった条件だけでなく、物件の細部に左右されるのです。

その代表的な要素が、会議室やテレカンブースの有無です。内覧時に「すぐに打ち合わせができる」「静かにオンライン会議ができる」といった環境が整っていると、テナントの印象は大きく変わります。候補リストに残るかどうかが、この一点で決まることも珍しくありません。

家具の導入についても同様の傾向があります。すべての執務席を一式揃えるよりも、ラウンジや会議室といった“見栄えのする空間”に投資する方が問い合わせは増えるのです。内覧時に訪れた担当者が「このまま使える」と直感できるかどうか、その心理的な後押しが契約を早めます。

さらに、意外なほど成約スピードに直結するのが写真や動画のクオリティです。高品質なビジュアルを用意している物件は、内覧予約の数が増え、結果として空室期間の短縮につながります。同じエリア・同じ面積帯の物件であっても、商品設計と情報発信の工夫次第で相場を数千円/坪押し上げることができる――これが私たち仲介現場での実感です。

オーナー様への戦略提言

以上を踏まえると、オーナーにとって有効な戦略はいくつか見えてきます。まず、小規模区画の在庫を複数持つこと。渋谷・港・中央の〜30坪区画は即決されやすいため、空室リスクを分散しつつ収益効率を高めるには、小割りでの供給が有効です。

次に、中型区画においては徹底した差別化が求められます。港や中央の30〜50坪帯は競合が多く、平凡な設計では埋まりにくい。ガラスパーテーションや照明演出などを駆使し、空間の質を高めることで相場を上回る賃料を目指すべきです。

また、大型区画に関しては分割を前提とした設計が不可欠です。新宿や千代田では100坪超の需要もありますが、実際には50〜70坪に分けて貸したほうが決まりやすいケースも多く見られます。柔軟に分けられるレイアウトや配線計画をあらかじめ組み込んでおくことが、リスクを抑えつつ収益を確保するカギとなります。

最後に強調したいのが、プロモーションの重要性です。いかに高額な内装投資をしても、情報発信が不十分であれば相場通りには決まりません。写真や動画、さらに専用ランディングページを用意することで、内覧の数が増え、リーシングスピードが格段に上がります。オーナーにとって、内装投資とプロモーションは表裏一体。どちらか一方が欠けても成果は得られにくいのです。

まとめ

2025年の東京オフィスマーケットでは、セットアップオフィスの存在感がますます高まっています。渋谷・港・中央では小区画の高水準が続き、千代田・新宿では中型〜大型の需要が厚いことが確認できました。一方で、30〜50坪帯の競争は激しく、仕様やプロモーション次第で大きな差が生じています。

オーナーにとってセットアップオフィスは単なる「内装コスト」ではなく、「販売戦略」の一部です。誰に、どんな利用シーンで、どのように見せるか。商品としての作り込みと情報発信が、相場を超える成約を実現します。

私たち仲介会社は、日々のデータと現場感をもとに、最適な商品設計と募集戦略を提案しています。本コラムが、貴物件の収益性を高める一助となれば幸いです。

この記事を書いた人

福田勇人

オフィス仲介歴20年以上、オフィス不動産に関する専門家です。2002年に新卒でオフィス仲介会社に入社し、オフィス物件の仲介に携わりました。その後、2012年にスリースターに入社し、仲介営業としての経験を積んでまいりました。現在は広報やマーケティングを担当し、オフィス不動産における情報を提供し、お客様に最適なソリューションを提案する役割を果たしています。