サステナブルオフィスという選択 ― 環境・人・社会をつなぐ新時代の働く場

かつてオフィス選びの判断基準は、立地、賃料、そして面積が中心でした。ところが今、企業の価値を測る物差しは大きく変わりつつあります。地球温暖化や資源枯渇といった環境課題、従業員のウェルビーイング、そして地域社会との共生――こうした要素を含めた“サステナビリティ”が、オフィス戦略の中核に据えられる時代が到来しました。
国や自治体の政策、ESG投資の拡大、Z世代・ミレニアル世代の価値観変化が相まって、「どこで、どんな空間で働くか」が、採用力・生産性・ブランド価値を左右する経営課題となっています。
本記事では、サステナブルオフィスの必要性とその実践ポイントを、不動産仲介の現場視点から解き明かします。
なぜ今、オフィスにサステナビリティが求められるのか
かつてオフィス選びは「立地」「賃料」「面積」がほぼ全ての判断基準でした。しかし、地球温暖化対策やSDGsの推進、投資家のESG評価の重視など、社会環境が大きく変化した今、企業のオフィス戦略も進化を迫られています。
特にZ世代・ミレニアル世代の社員や候補者は、企業の環境や社会への姿勢を採用選択の基準にする傾向が強まっています。2022年のリクルートワークス研究所の調査では、20代社員の約57%が「企業の環境配慮方針が就職・転職の判断材料になる」と回答しています。つまり、サステナブルなオフィスは「採用ブランディング」にも直結する経営戦略なのです。

サステナビリティの国際的潮流とオフィスへの波及
国際的には、パリ協定やSDGsの採択を契機に、建物部門の温室効果ガス削減は急務とされています。IEA(国際エネルギー機関)によると、世界の最終エネルギー消費量の約36%、CO₂排出量の約37%は建築物の建設・運用に由来しています。
これに伴い、各国で建物の環境性能を評価する認証制度が整備されました。米国のLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)、英国のBREEAM(Building Research Establishment Environmental Assessment Method)、日本のCASBEE(建築環境総合性能評価システム)やZEB(Net Zero Energy Building)などがその代表です。
グローバル企業は本社移転や拠点新設時に、これらの認証取得を条件とするケースも増加しています。理由は単に環境負荷削減ではなく、ESG投資家や取引先からの信頼を高めるためです。

日本の政策とオフィス環境の変化
日本政府も「2050年カーボンニュートラル」達成に向けて、省エネ法や建築物省エネ法を改正し、新築ビルだけでなく既存ビルの環境性能向上を促しています。
国土交通省の「ZEBロードマップフォローアップ」資料によると、2023年度までにZEB ReadyやZEB Orientedの認証を受けた非住宅建築物は累計で2,000件以上に達しました。特に東京都心部の大型オフィスでは、入居条件として環境性能認証を求める外資系テナントの増加が背景にあります。
また、東京都は2025年度から「建物排出量総量削減義務と排出量取引制度(キャップ&トレード)」の対象を拡大し、延床面積2,000㎡以上のオフィスビルには省エネ改修や再エネ導入が事実上必須となります。

サステナブルオフィスの特徴
1. 環境性能
- 高効率設備:インバーター式空調、LED照明、自動調光センサー
- 再エネ利用:屋上ソーラーパネル、グリーン電力契約
- 資源循環:節水トイレ、雨水・中水利用、廃棄物分別回収の徹底
2. 働く人の快適性
- 自然光・換気設計:窓配置や吹き抜け構造による自然採光・通風
- 温熱環境最適化:エリア別空調、パーソナル空調
- 休憩・交流空間:カフェラウンジ、屋上庭園、マルチスペース
3. 社会的価値
- 地域連携:近隣住民向け開放イベントや防災拠点機能
- BCP対応:非常用電源、耐震・免震構造、帰宅困難者受け入れ設備

オフィス不動産仲介業者の役割
仲介業者は、単に物件情報を紹介する立場から、企業のサステナビリティ戦略を共に設計するパートナーへと役割が変わっています。
- 環境性能評価の調査・比較:CASBEEスコア、ZEB認証、CO₂削減量の定量比較
- ランニングコストシミュレーション:光熱費削減額、投資回収年数
- 企業価値への効果提案:ESGレポート開示内容への活用、採用広報での差別化

まとめ
サステナブルオフィスは、コスト削減・ブランド向上・採用力強化という三つの効果を兼ね備えた経営資産です。今後は、環境性能やBCP対応が「オフィス選びの必須条件」になると同時に、企業が社会に示すメッセージの象徴にもなります。
仲介業者としては、これらの価値を数値と事例で裏付け、経営戦略に直結する提案を行うことが、選ばれるパートナーになるための鍵です。
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